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いなべん(田舎弁護士) みのる弁護士法律事務所 「的外れ 2006年5月号より」 MFS通信 第20160828号

2016.09.27

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著者プロフィール

弁護士 千田 實 氏(ちだ みのる)

みのる法律事務所 所長

~メディカルフードサービスとのつながり~

MFSも賛助会員として参加しているNPO法人食事療法サポートセンターの理事として千田實先生も活動されております。

当社代表 松島は千田實先生の著書を読み、深く感銘を受け、少しでも多くの方に食事療法を長く続けて欲しいと思いニュースレターに抜粋記事として掲載していきます。

千田先生についてさらに詳しくはこちら→ http://www.minoru-law.com/profile.html

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「予防医師」、「予防弁護士」より抜粋

広辞苑によりますと 「予防」とは、悪い事態がおこらないように前もってそれを、防ぐことです「予防医学」とは、個人若しくは集団を対象として、健康保持・疾病。予防の方策を研究・実践する医学の一分野です。予防医学に対する反対語は 「治療、医学」とか「臨床医学」とかいうことになるものと思います。「治療」とは、病気やケガを治すために施す種々の手立てです 「臨床医学」は、病人を実地に診療・治療する医学です。今、私は体験を通じて、予防医学の大切さを痛感しています。予防医学の有効性と必要性を、声を大にして述べたいと思います。

私は、40代の後半から糖尿病・高血圧症の兆候が現れ、血圧を下げる薬と血糖値を下げる薬を長いこと服用していました。確かに薬を服用すると、一時的には血圧も血糖値も下がりました。しかし、それは薬を使用したためであり、薬の作用の結果に過ぎませんでした。自分自身の体そのものは、治ってはいなかったのです。体質は変わっていなかったのです。だんだん薬はより強いものにせざるを得ません。血糖値を下げるため、はじめの数年間はごくわずかな薬を服用するだけで済んでいましたが、だんだん薬の量が増えました。ついには、薬を服用することでは間に合わなくなりました。

5年ほど前からインシュリン注射を打つようになりました。インシュリンの量はだんだん増えていきました。インシュリンの量を増やすことによって、血糖値は一定のレベルまで下げることができていましたが、そのうち腎臓の機能が低下していることが判明しました。

縁とはありがたいもので、縁あって昭和大学医学部客員教授の出浦照國先生の診断・治療を受ける機会を得ました。先生は、早くより腎臓病患者のための食事療法を研究し、その道では日本一と言われる方です。

先生は「薬を使わないで治すのが本当の治療だ」と言うのが持論です。

私は、平成17年7月19日から先生の診断・治療を受けるようになりましたが、1ヶ月に1回、先生の指導を受けた結果、どんどん薬の量が減り、半年後には血圧の薬もインシュリン注射も一切使う必要がなくなりました。

食後に飲む薬の量は、片手に乗り切らなかったものが、何もなくなりました。

爽快な気分になりました。かつて昼寝をしなければ夕方になると疲労感が出て仕事に集中できなかったり、階段を上っただけで息切れがしましたが、今ではそのようなことは全くなくなりました。両手首に1kgのダンベルを巻き付け、朝晩1時間ずつ行うウォーキングを欠かすことはありません。それでも、疲れを感ずることは全くなくなりました。「こんなことってあるのだろうか」と狐につままれたような気分ですが、生き返った気がします。おかげで仕事は無論ですが、趣味の執筆の方も順調に進み、出浦先生から指導を受けるようになってから2冊の本を世に出すことができました。引き続き、年内に3冊や4冊の本は出せそうです。これも偏に出浦先生のおかげと感謝に堪えません。

医師や病院を訪ねる患者は、治療医学や臨床医学を求めています。つまり、病気やケガを治すための手立てを求めています。ですから医師や病院は、病気やケガを治すために薬や注射を施すことになります。特別おかしいことではありません。しかし、生活習慣病とも呼ばれる成人病、つまり動脈硬化・高血圧・糖尿病など壮年期以後に発生しがちな病気については、薬や注射で一時的に数値を下げても根本的な治療にはならないのです。患者も担当医も、薬や注射を使っても数値が下がると安心しますが、これは誤りだと思います。

体質を改善しなければならないのです。

この分野においては予防医学、つまり健康保持・疾病予防の方策を講じなければならないのです。そうしなければ本当の治療にはなりません。

前にも紹介しましたが、出浦先生は「薬を使わないで治すのが本当の治療だ」と言われたことがありますが、生活習慣病については全くそのとおりだと思います。然るに、普通の医師や病院では、薬や注射はしてくれますが栄養食事指導などはほとんどしてくれません。世間一般に知られている「塩分は控えなさい」とか「あまり食べ過ぎないで下さい」などとは注意しますが、それ以上きめ細かい指導はしません。

薬や注射をすれば効果はてきめんです。薬や注射を使う気持ちは理解できなくはありません。

しかし、これでは成人病を根本的に治すことはできません。成人病は、予防医学、つまり予防の方策を探求しなければ治りません。そのことを、出浦先生にお会いして心の底から知らされました。

出浦先生は、笑いながら「薬を使わないで治すのが本当の治療だが、それでは医療機関は儲からない」と言われたことがあります。このことを指して、世の中で「医は仁術だと言われているのに、今の医療は、医は算術だ」などと囁かれる原因になっています。

予防医学が軽視され、治療医学や臨床医学が優先しているのは、このような医師や医療機関側の事情があることは否定できないのではないでしょうか。予防医学が軽視され、治療医学や臨床医学が重視されている現実を創り出している原因は、行政にもあります。

保険診療を行った医療機関に健康保険が支払う医療費(診療報酬)は、厚生労働大臣が決める「診療報酬点数表」により計算されます。診療報酬点数表は、初診何点、〇〇検査何点、〇〇手術何点、入院1日何点というように、全ての医療行為が点数(1点単価10円)でこと細かく表されております。

いくつかの例を紹介しますと、初診270点、外来診療料(深夜)420点、往診650点、特定薬剤治療管理料は470点、虫垂切除術6,210点、腹腔鏡下虫垂切除術18,000点、試験開心術24,700点などです。これに対し、外来栄養食事指導料は130点に過ぎません。

しかも、外来栄養食事指導料は 「初回の指導を行った月にあっては1月に2回を限度として、その他の月にあっては1月に1回を限度として算定する」となっています。ですから、こまめに栄養食事指導を必要とする患者に対し、1ヶ月に複数回指導してもカウントされないということになります。これでは、栄養食事指導をする医師や病院は気の毒です。このような医療行政のあり方にも、予防医学を軽視している姿がはっきりと示されています。予防医学が軽視されているのは、このような医療行政に根本原因があるように思われます。

予防医学が軽視されるのは、医師や医療機関や医療行政だけが悪いと思い込んでいましたが、そればかりではないことを知る機会を最近得ました。

裁判の待ち時間に依頼者(クライアント)と雑談をしていました。そのクライアントは、かつてある村の職員でした。その村は、一時無医村となってしまいました。全国を探し回り、やっとのことで1人の医師を村に招きました。その医師は、出浦先生と同じような考え方の医師で「薬には副作用がある。やむを得ず使うことはあるが、長く使えばマイナスが必ず出てくる」という考えを持っておられ、極力薬や注射を回避しました。

その医師は、その村で2年ほど村民の治療に当たりましたが 「この村では、私を必要としていない」と言って村を離れました。

村民から不平不満が出たのだそうです 「あの先生はさっぱり治療をしてくれない。薬を出したり、注射を打ったりしてくれない」という不満です。だんだんその医師の耳にも、その不満が届くようになりました。その医師は、嫌気がさしてきました。その結果「この村では私を必要としていない」という言葉を残し、村を去ることになったのです。

「そうか。予防医学が軽視され、治療医学や臨床医学だけが重視されるのは、医師や医療機関や医療行政だけにその原因があるのではないのだ。患者側にも大きな原因があるのだ」と気付きました。まさに目から鱗です。

血圧が高ければそれを下げたい、血糖値が高ければそれを下げたい、と思うのは患者として当たり前です。そのために、薬が欲しいとか注射を打ってもらいたいというのも無理からぬところです。そのような患者の希望があり、それを叶えてやれば診療報酬点数も上がる以上、それをやめて栄養食事指導に徹するなどということはなかなかできることではありません。

しかし、悪い事態がおこらないように前もってそれを防ぐこと、つまり「予防」は、悪い事態がおこってからその対策を講ずる以上に大事なことなのです。悪い事態がおこらないように前もってそれを防ぐことは望ましいことであり、体にとっても財布にとっても負担が軽くて済むことです。

予防医学の効果の大きさに比べ、予防医学に対する評価の低さには驚くと同時に憤りを覚えます。医師や医療機関や医療行政はもちろんのこと、われわれ患者も一般市民も認識を改めなければなりません。もっと予防医学の大切さと予防医学に対する感謝の気持ちを持たなければなりません。そのためには、栄養食事指導に対する診療報酬点数を大幅に高めることが急務です。

*みのる法律事務所便り「的外」第193号 平成18年5月より抜粋

                 著 千田 實 弁護士

 

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